静岡地方裁判所 昭和61年(ケ)227号 判決 1988年3月14日
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の申立て
一 原告
1 静岡地方裁判所昭和六一年(ケ)第二二七号債権者・被告、債務者兼所有者・原告間の本判決別紙不動産競売開始決定の別紙担保権・被担保債権・請求債権目録記載2の被担保債権及び請求債権(1)ないし(14)の各債権は、同目録記載1の担保権(昭和五五年三月二四日設定、同月二八日設定登記された極度額金一〇〇〇万円の被告の原告に対する根抵当権)の被担保債権ではないことを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文と同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 静岡地方裁判所は、被告の申立てにより昭和六一年八月二九日本判決別紙不動産競売開始決定(以下「本件開始決定」という。)をした。
2 本件開始決定の別紙担保権・被担保債権・請求債権目録(以下「本件目録」という。)記載1の担保権(前記第一、一、1記載の根抵当権、以下「本件根抵当権」という。)の被担保債権の範囲は、(1)信用金庫取引、(2)手形債権・小切手債権と定められている。
3 本件開始決定において被担保債権及び請求債権として記載されている本件目録記載2の(1)ないし(14)の各債権(以下「本件各債権」という。)は、文意上被告の原告に対する各貸付債権と解されるが、実は被告の訴外株式会社ナニワ理建(以下「ナニワ理建」という。)に対する各貸付債権(以下「本件各貸付債権」という。)である。
よって、本件各債権は、本件根抵当権の被担保債権ではないことが明らかである。
4 もっとも、原告は、被告との間に、昭和五七年二月一八日、ナニワ理建と被告との間の信用金庫取引により生ずる債務につきナニワ理建と連帯して保証する旨の契約を締結しているので、本件各貸付債権につき被告に対し連帯保証していることになる。
仮に、本件目録記載の本件各債権が右連帯保証による被告の原告に対する各債権(以下「本件各保証債権」という。)を表示したものであるとしても、このような被告の第三者(他の取引先)に対する債権についての連帯保証債権は、本件根抵当権の被担保債権とはならない。
5 よって、原告は、被告との間で、本件各債権が本件根抵当権の被担保債権ではないことの確認を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1、2の各事実及び3、4の各前段の事実はいずれも認めるが、3、4の各後段は争う。本件各債権は、実質的には本件各保証債権を表示したものである。
三 被告の主張
1 本件根抵当権の被担保債権の範囲とされている信用金庫取引とは、原告と被告との間に締結された昭和五四年七月六日付信用金庫取引契約(以下「本件信用金庫取引契約」という。)に基づく債権を指すところ、右契約の適用範囲は、「手形貸付、手形割引、証書貸付、当座貸越、債務保証その他一切の取引に関して生じた債務の履行」(同日付信用金庫取引約定書第一条第一項)と定められている。
2 右にいう「その他一切の取引」とは、同条項に例示された取引はもちろん、当座過振り、有価証券貸付などの与信取引のほか、取引先(原告)が第三者(ナニワ理建)の信用金庫(被告)に対する債務を信用金庫に対して保証ないし連帯保証する場合をも含むものである。何故ならば、同条項に例示された取引の種類をみれば、ここにいう「取引」とは信用金庫取引全般ではなく、その一部である「与信取引」を指すものと解されるところ、取引先が第三者と信用金庫との取引によって生ずる債務を保証ないし連帯保証する場合も、保証ないし連帯保証契約という与信取引に付属する保証人ないし連帯保証人(取引先)と信用金庫との直接取引であるといえるからである。したがって、本件各保証債権が本件根抵当権の被担保債権となることは明らかである。
3 また、本件信用金庫取引契約には、その適用範囲として、原告が振出、裏書、参加引受、又は保証した手形を被告が第三者との取引によって取得したときも、その債務の履行について右契約の約定に従う旨の条項もあるところ(同約定書第一条第二項)、本件目録記載2の(2)ないし(12)の各債権の元金合計金二九四六万八四七六円は、原告振出の約束手形による債権であり、これらは、右条項によっても本件根抵当権の被担保債権となる。
四 被告の主張に対する認否及び反論
1 被告の主張1のうち、原告と被告との間に本件信用金庫取引契約が締結されたこと及び右契約の適用範囲が被告主張のとおり定められていることは認めるが、その余は争う。
2 同2、3は争う。
3 本件根抵当権の被担保債権の範囲とされている「信用金庫取引」によって生ずる債権とは、民法三九八条ノ二第二項にいう「債務者トノ一定ノ種類ノ取引ニ因リテ生ズルモノ」を意味するところ、右債権は根抵当権者(信用金庫・被告)と債務者(取引先・原告)との直接の取引、すなわち信用金庫が直接取引先との間で行う与信取引によって発生する債権を意味することは、法条の文理上からも当事者の意思解釈上からも明らかであり、本件各保証債権はそのような債権にあたらない。
また、被告主張の本件信用金庫取引契約は、民法三九八条ノ二第二項にいう「債務者トノ特定ノ継続的取引契約」にあたるべきものであるところ、実際には本件根抵当権の被担保債権の範囲として何ら掲げられていないから、その文言(「その他一切の取引」)を本件根抵当権の被担保債権の範囲を解釈するにあたって考慮するのは不当である。仮にそうでないとしても、本件信用金庫取引契約の約定書は、取引先に対し、附合契約的な細かい印刷文字を羅列したものに、内容の説明もせず、一方的に調印を求め、写しを交付することもなく、公に表示されたものでもないから、そこに記載された条項・文言を本件根抵当権の被担保債権の範囲を定めるものとしてたやすく採用するのは問題である。すなわち、自己が債務を負うについて信用金庫に差し入れた担保が第三者の信用金庫からの借入金債務をも担保することになるなどとは、債務者としては決して考えないのが通常である。
よって、本件各保証債権、したがって本件各債権は、本件根抵当権の被担保債権ではないものと解すべきである。
4 被告の主張3記載の各債権は、いずれも手形割引の方法による貸付債権ないしそれについての連帯保証債権であり、手形債権ではない。
第三 証拠関係(省略)
別紙
No.11
昭和61年(ケ)第227号
不動産競売開始決定 当事者 別紙目録のとおり 担保権 被担保債権} 別紙目録のとおり 請求債権 債権者の申立てにより、上記請求債権の弁済に充てるため、別紙担保権目録記載の根抵当権に基づき、別紙目録記載の不動産について、担保権の実行としての競売手続を開始し、債権者のためにこれを差し押さえる。 昭和61年8月29日 静岡地方裁判所 裁判官 孝橋宏<印>
当事者目録
〒420 静岡市昭和町2番地の1
債権者 静清信用金庫
代表者代表理事 村上安男
〒420 静岡市常盤磐町1丁目4番地の11 杉徳ビル3階
尚和法律事務所
申立債権者代理人
弁護士 奥野兼宏
弁護士 河村正史
弁護士 小倉博
〒420 静岡市横田町7番12号
債務者兼所有者 小林今朝丸
担保権・被担保債権・請求債権目録
1 担保権
(1) 昭和55年3月24日設定の根抵当権
(2) 登記 静岡地方法務局
昭和55年3月28日受付
第14570号
(3) 極度額 金10,000,000円
2 被担保債権及び請求債権
債権者が、申請外株式会社ナニワ理建との間の信用金庫取引契約に基づき同社に対して有する下記債権につき、債権者が債務者兼所有者と締結した昭和54年7月6日付信用金庫取引契約および昭和57年2月18日付連帯保証契約(債権者と申請外株式会社ナニワ理建との信用金庫取引契約により生ずる同社の債務につき連帯保証する)に基づき、債務者兼所有者に対し有する連帯保証債権のうち極度額金10,000,000円
記
(1) 元金 2,580,701円
(金2,886,000円の残元金)
種類 手形割引
弁済期 昭和58年10月31日
割引日 昭和58年5月30日
損害金の率 年14.5パーセント
損害金 昭和58年11月1日から完済まで上記元金に対する年14.5パーセントの割合。
(2) 元金 3,618,000円
種類 手形割引
弁済期 昭和58年9月30日
割引日 昭和58年4月30日
損害金の率 年14.5パーセント
損害金 昭和58年10月1日から完済まで上記元金に対する年14.5パーセントの割合。
(3) 元金 1,592,000円
種類 手形割引
弁済期 昭和58年10月15日
割引日 昭和58年4月30日
損害金の率 年14.5パーセント
損害金 昭和58年10月16日から完済まで上記元金に対する年14.5パーセントの割合。
(4) 元金 2,988,000円
種類 手形割引
弁済期 昭和58年10月15日
割引日 昭和58年5月14日
損害金の率 年14.5パーセント
損害金 昭和58年10月16日から完済まで上記元金に対する年14.5パーセントの割合。
(5) 元金 2,995,000円
種類 手形割引
弁済期 昭和58年10月31日
割引日 昭和58年5月30日
損害金の率 年14.5パーセント
損害金 昭和58年11月1日から完済まで上記元金に対する年14.5パーセントの割合。
(6) 元金 2,461,000円
種類 手形割引
弁済期 昭和58年11月15日
割引日 昭和58年6月27日
損害金の率 年14.5パーセント
損害金 昭和58年11月16日から完済まで上記元金に対する年14.5パーセントの割合。
(7) 元金 2,757,476円
(金2,978,000円の残元金)
種類 手形割引
弁済期 昭和58年7月31日
割引日 昭和58年2月16日
損害金の率 年14.5パーセント
損害金 昭和59年2月2日から完済まで上記元金に対する年14.5パーセントの割合。
(8) 元金 5,861,000円
種類 手形割引
弁済期 昭和58年7月31日
割引日 昭和58年2月28日
損害金の率 年14.5パーセント
損害金 昭和59年8月2日から完済まで上記元金に対する年14.5パーセントの割合。
(9) 元金 1,624,000円
種類 手形割引
弁済期 昭和58年8月15日
割引日 昭和58年3月30日
損害金の率 年14.5パーセント
損害金 昭和58年8月16日から完済まで上記元金に対する年14.5パーセントの割合。
(10) 元金 2,571,000円
種類 手形割引
弁済期 昭和58年8月31日
割引日 昭和58年3月30日
損害金の率 年14.5パーセント
損害金 昭和58年9月1日から完済まで上記元金に対する年14.5パーセントの割合。
(11) 元金 1,266,000円
種類 手形割引
弁済期 昭和58年9月15日
割引日 昭和58年4月13日
損害金の率 年14.5パーセント
損害金 昭和58年9月17日から完済まで上記元金に対する年14.5パーセントの割合。
(12) 元金 1,735,000円
種類 手形割引
弁済期 昭和58年9月30日
割引日 昭和58年4月13日
損害金の率 年14.5パーセント
損害金 昭和58年10月1日から完済まで上記元金に対する年14.5パーセントの割合。
(13) 元金 19,455,000円
種類 証書貸付金30,000,000円の残金
弁済期限 昭和61年5月20日
昭和58年7月20日債務不履行により期限の利益を喪失した。
貸付日 昭和56年5月30日
損害金の率 年14.5パーセント
損害金 昭和58年7月21日から完済まで上記元金に対する年14.5パーセントの割合。
(14) 元金 11,017,032円
種類 証書貸付金17,000,000円の残金
弁済期限 昭和61年12月20日
昭和58年9月1日債務不履行により期限の利益を喪失した。
貸付日 昭和56年12月28日
損害金の率 年14.5パーセント
損害金 昭和58年9月2日から完済まで上記元金に対する年14.5パーセントの割合。
物件目録
1 所在 静岡市横田町
地番 7番17
地目 宅地
地積 94.72平方メートル
2 所在 静岡市横田町
地番 7番24
地目 宅地
地積 57.86平方メートル
3 所在 静岡市横田町7番地17、7番地24
家屋番号 7番17
種類 店舗兼居宅
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根三階建
床面積 1階 52.55平方メートル
2階 52.34平方メートル
3階 52.34平方メートル
(附属建物)
種類 倉庫
構造 軽量鉄骨造スレート葺二階建
床面積 1階 41.80平方メートル
2階 41.80平方メートル